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春に観たい!華やかなアール・ヌーヴォー絵画を国ごとにご紹介

こんにちは。ARTWORKS.galleryです。

お出かけにぴったりな春日和が続くこのごろ、いかがお過ごしでしょうか。
八重桜がところどころで咲いていて、春光うららかな陽気に気持ちも晴れやかになりますね。

花や植物といえば、植物のつるや花を装飾的に描き優美で華やかな作品を手がけた画家、アルフォンス・ミュシャの作品を一度は目にしたことがあるのではないでしょうか? 彼はアール・ヌーヴォーを代表する画家でもあります。

アール・ヌーヴォーは19世紀末に欧米で流行した芸術様式で、花や植物などの有機的なモチーフや、自由曲線の組み合わせによる華やかな装飾性が特徴です。流行したのは20年という短い期間ではありましたが、絵画、ポスター、建築など多方面で表現されました。現代でもグラフィックをはじめ、目にする機会が多い様式で、ミュシャをはじめとするアール・ヌーヴォーの画家の展覧会は日本でも人気です。

今回は春にぴったりな華やかなアールヌーヴォーがどのような時代に花開いた様式なのかを時代背景からお伝えし、特徴や呼び名が国ごとに異なるアール・ヌーヴォーについて、国別に有名な画家の作品と共に紹介します。

アルフォンス・ミュシャ《夢想》1898

 

世紀の区切りに、時代に求められ華咲いたアール・ヌーヴォー

 

アール・ヌーヴォーは、産業革命以降の大量生産を背景にイギリスで興ったアーツアンドクラフツ運動に影響され、19世紀末から20世紀初頭にかけて欧米で流行した芸術様式です。新素材を取り入れた表現の追求や、工芸品やポスターといった分野も含め「芸術」と捉える範囲が広がりました。

作品の特徴は前述の通り、植物などの有機的なモチーフを用いた曲線的な装飾のほか、女性をモデルにすることや官能的な表現も多く見られます。 同時に、19世紀末という時代、経済や技術が急速に発達し繁栄する一方、世紀末という「終息」を思わせる恐れや焦燥感が高まる時期でした。画家たちはそんな夢と現実が交差したような幻想的、退廃的な世界観を表現したと言われています。

さらに、同時期に西欧で流行していたジャポニスム(日本趣味)に影響を受け、作品の中に日本的な要素も見られます。

このように、アール・ヌーヴォーには様々な要素が含まれているのです。

 

 

国ごとの特徴や画家の違いとは?

 

欧米で流行したアール・ヌーヴォーですが、実は、国ごとにも独自の呼び名があります。また、国によってアール・ヌーヴォーの様式を確立した背景が異なるだけでなく、画家ごとにも独自の特徴があるので、各国の画家の作品をそれぞれみていきたいと思います。

 

 

フランス

 

アール・ヌーヴォー(Art nouveau)とは、フランス語で「新しい芸術」という意味で、美術商のお店「L'ArtNouveau」が名前の由来と言われています。店内には、当時の最も新しい工芸品や室内装飾が展示されており、展示品に共通する特徴の、波打つように湾曲するS字曲線を「アール・ヌーヴォー様式」と呼ぶようになったのが始まりです。
1900年に開催されたパリ万国博覧会でアール・ヌーヴォーは盛り上がりを見せ、フランスに留まらず、やがてヨーロッパ全域に広がる国際性をもつことになりました。

 

 

○アルフォンス・ミュシャ

チェコ出身のフランスで活動した画家です。ポスターや装飾パネル、カレンダー等を制作。優美で華やかな女性、風になびく豊かな髪、流れるような衣装、装飾的なモチーフが特徴的な作品を制作し、人気を博しました。

《黄道十二宮》1898年、《春》1896年、《ジョブ》1896

 

 

○トゥールーズ・ロートレック

ボヘミン・ライフスタイルという世紀末独特の退廃的な空気が漂うパリの歓楽街の人々の様子を描いた画家です。ジャポニスムの平面的な構図や、浮世絵の技法である人物の輪郭線、役者絵にみられる大胆な構図などを取り入れています。

(左)《ディヴァン・ジャポネ》1892年、(中央)《アンバサドールのアリスティード・ブリュアン》1892年、(右)《ムーラン・ルージュのラ・グリュ》1891

 

 

○ジュール・シェレ

「近代ポスターの父」と呼ばれ、ロートレックやミュシャが登場するより前から人気の画家でした。彼は、高彩度の多色表現で陽気かつ優雅に表現しつつ、人物が画面から飛び出すような躍動感で、舞踏会という華やかなイメージを大衆に親しみやすく伝えた画家です。

(左)Fleur de Lotus, 1893年、(中央)《バニェール=ド=リュションの花祭り》1890年、(右)《キンキナ・デュボネ》1895

 

 

イギリス

 

イギリスでは、アール・ヌーヴォーを「モダン・スタイル」や「リバティスタイル」と言います。イギリスは他国のアール・ヌーヴォーから大きな影響を受けず、アーツアンドクラフツ運動をルーツに独自の方向へ歩んでいきました。
19世紀後半、絵画に関しては「自然」をキーワードに人物や風景を表現する「ラファエル前派」という芸術運動が主流で、その影響はイギリスを代表するアール・ヌーヴォーの画家、オーブリー・ビアズリーをはじめ、イギリス中の画家にも及ぼしました。

 

 

○オーブリー・ビアズリー

モノクロで倒錯的なイメージとグロテスク、セクシュアルな要素を持たせた作風で歴史や神話をテーマにした挿絵が有名です。ジャポニスムにも影響を受け、浮世絵の平面性や非対称で余白のある構図を作中に取り入れています。
25歳という短命な生涯でしたが、彼の作品はアール・ヌーヴォーの画家に影響を与えました。

(左)The Dancer's Reward, 1894年、(中央)The Peacock Skirt, 1894年、(右)The Climax, 1894

 

 

ドイツ・オーストリア

 

ドイツでアール・ヌーヴォーは「ユーゲントシュティール」と呼ばれ、アーツアンドクラフツ運動の影響を大きく受けて生まれました。アール・ヌーヴォーの柔らかい曲線美に加え、直線や平面を強調し、幾何学的な模様を使用する傾向にあることが特徴です。
また、同時期に活動していたあの有名なグスタフ・クリムトもその流れを組み、作中に類似する様式を取り入れています。

 

 

○コロマン・モーザー

日本では家具や工芸品を紹介されることが多いのですが、絵画やグラフィクデザインなど多岐に渡り活躍したウィーン出身のアーティストです。モーザーの作品はアール・ヌーヴォー的な曲線に加え、抽象的なパターンや幾何学模様を組み合わせた作風が特徴です。作品によくみられる唐草模様は、日本のテキスタイルのパターンやデザインにインスパイアされたと言われています。

(左)オーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフ1世の記念切手, 1908年、(中央)Early spring, 1901年、(右)郵便切手, 1908

 

 

アメリカ

 

アメリカでは、1890年に西欧から『ハーパーズ』誌が輸入されたことを機にアール・ヌーヴォーが知られるようになります。西欧のアール・ヌーヴォーの特徴であった植物をモチーフにした曲線や幾何学模様は、アメリカのアーティストにも影響を与え、繊細な線から強くたくましいものまで作中に使用し、有機的なフォルムのバランスを巧みにとった作品の傾向がみられます。また、植物や昆虫、動物などのあらゆる自然模様が装飾の主役となっていることも特徴です。

ちなみに、今では高級宝飾ブランドとして知られるティファニーの創業者の息子ルイス・ティファニーは、アール・ヌーヴォーの装飾を用いたステンドグラスやランプを手掛けました。彼の名前にちなんで、アメリカではアール・ヌーヴォーを「ティファニー・スタイル」と呼ぶこともあります。

花瓶, 1893~1896

 

 

○ウィル・H・ブラッドリー

イギリスのオーブリー・ビアズリーの作品からも影響を受け、「アメリカのビアズリー」と呼ばれた画家です。アール・ヌーヴォーの曲線美に加え、日本の版画の様式や平坦さ、モノクロベースに色彩を加えた作風が特徴です。

(左)雑誌『The Chap-Book』のポスター, 1895年、(中央)雑誌『ハーパーズバザー』の表紙絵, 1896年、(右)雑誌『Bradley his book』のポスター, 1896

 

 

○ルイス・リード

フランスのアール・ヌーヴォーの画家ウジェーヌ・グラッセの影響を受けた、イギリス出身でアメリカで活躍した画家。作品は多数の雑誌に掲載されるほか、国際ポスター展覧会での受賞や、書籍の挿絵の分野で活躍しました。
落ち着いた色味を使いつつ、色同士のコントラストを効かせた大胆な配色が特徴です。

(左)雑誌『The Quartier Latin』のポスター, 1895、(中央)雑誌『The Century Magazine』のポスター, 1896、(右)Woman with Peacocks, 1897~1898

 

 

 

アール・ヌーヴォーは新しい芸術を追求した芸術運動

 

このように作品をみてみると、アール・ヌーヴォーが発展していく経緯が国ごとに異なり、さらに画家ごとにも独自性があることがわかりますね。

アール・ヌーヴォーというと、花や植物などの有機的な曲線をイメージしがちですが、画家によって表現は様々で、曲線と直線を混ぜ合わせた作風や、世紀末という退廃的な雰囲気を全面に出す作風、ジャポニスムの要素が色濃く現れた作品など、定義の幅が大きいことに気付かされます。また、他の芸術運動とも接点を持っているところが、アール・ヌーヴォーの面白い点でもあります。

というのも、「新しい芸術」という本来の意味を示すように、アール・ヌーヴォーは、その時代に相応しい芸術を追求した運動で、作風を一概には定義することはできず、その時代を表す表現や斬新な作風も含めて考えられるのです。

20年間という短い期間ではありましたが、アール・ヌーヴォーが西欧全体に広まる大きなムーブメントであったということがおわかりいただけたのではないでしょうか。

今回の記事を通して、アール・ヌーヴォーの新たな一面を知るきっかけとなれたら嬉しいです。作品をみる際は、今回の内容を頭の隅において、鑑賞してみてはいかがでしょうか。

 

 

 

アール・ヌーヴォーを代表するミュシャの作品は以下の展覧会でご覧いただけます。

「アルフォンス・ ミュシャ」展 八王子市夢美術館 4月7日(金)〜6月4日(日)
「おいしいミュシャ 5感であじわうアール・ヌーヴォー」展 堺 アルフォンス・ミュシャ館 4月8日(土)〜7月30日(日)

 

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